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  • 研究成果

高校の先生のポジティブ感情の源泉 | 学校心理学研究第22巻に,研究チームメンバーの論文が掲載されました。

粟ケ窪玲子・飯田順子 2023 「高等学校教員のポジティブ感情経験とワーク・エンゲイジメントに関する研究―動機づけプロセスからの検討」学校心理学研究, 22,29-42.

著者の粟ケ窪令子さんに,論文の紹介を寄稿していただきました。

私は、高等学校教員の時職場で療養休暇の末退職される方に出会いました。とてもつらそうで、その上ご自身を責めておられ、同僚として自分の無力を感じました。その経験がきっかけで専門書を読んだり、論文を読んだりするようになり「バーンアウト」「やりがいのない多忙」といった言葉にも出会いました。原因を探求した論文も多くあることを知りました。

そんな時、同じ学校で働いているのに苦しんでいる先生と不平不満は言いながらも結構楽しそうに生き生きと働いている先生がいることに気づいたのです。同じフィールドにいて違いが生まれるのはどうしてかと考えるようになって、ワークエンゲイジメントという言葉にたどり着きました。ワークエンゲイジメントとはポジティブ心理学の中心概念の一つで、「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知」とされています。このワークエンゲイジメントという概念が教育現場に応用された例はあまりありませんでしたが、私はこの側面から研究してみたいと考えました。

研究の結果、まず生徒の成長や生徒との良好な関係の実感、そして教員としての貢献や自身の成長の実感、さらに職場での協働の実感が高等学校教員のポジティブ感情を生起させていることが示されました。さらにこれらのポジティブ感情を多く経験していることと、楽観性、統制力、行動力などの個人資源の高さが相互に影響して、没頭、熱意、活力からなるワークエンゲイジメントを高め、教科指導における内発的動機づけ、子ども志向、自身の熟達志向を促進していることもわかりました。つまりポジティブ感情を生起させる体験を教員がもっと実感できるよう生徒や同僚と関わる時間を確保できれば、教員のワークエンゲイジメントが高まり生き生きと働く原動力にもなって、ひいては生徒への教育援助サービスの提供という点でも重要であることが示されたのです。

高校の先生のポジティブ感情の源泉 

生徒の成長・良好な関係

・学校行事で生徒が活躍する姿を見た時の感動

・授業中の生徒の反応で授業が分かったのを感じた時の満足感

・生徒が互いに助け合うのを見た(知った)ときの嬉しさ

教員としての貢献・成長実感

・専門知識を生かして,生徒の支援や指導ができた時の充実感

・この仕事は次世代を育成するという意味のある仕事だと感じた時の充実感

・自分は頑張っているなと感じた時の充実感

職場の協働実感

・職場に尊敬できる先輩や同僚がいる時の安心感

・職場間で支え合う関係を感じた時の喜び

・同僚と連携して,生徒の支援ができた時の達成感