世界の学校における
ポジティブ心理学の展開　

ポジティブ心理学が提唱されたアメリカでは、学校教育における実践が早期から進められています。例えば、楽観性・希望・強み・マインドセット・レジリエンスやマインドフルネスなどの概念を応用したプログラムが導入されるなど、教室や学校をベースに多様な取り組みが行われています。
これらの実践からは、子どもたちの学校での取り組み態度、自己肯定感や学習成績に向上が見られたと報告されています。また、Social Emotional Learning, Positive Youth Developmentなど、研究者との協働による実践例も多く報告されています（https://casel.org/）。

ポジティブ心理学の教育における顕著な応用事例として、ビクトリア州にあるGeelong Grammar Schoolがあげられます。同校では、2006年から専門家チームと共に独自のカリキュラムを開発し、初等教育から高等教育までを含む全学的な取り組みを行っています。また、若者のメンタルヘルス問題への取り組みとして、保健省やオーストラリア心理学会などが協働し、大規模なプロジェクトを導入しています(https://beyou.edu.au/)。
就学前期から青年期を対象としたプログラムに加え、現場に入る前の教員のための研修、さらに自殺予防プログラムなどが実践されています。

2007年に複数の自治体から20校以上が参加し、約2000名の7年生（日本の中学1年生）を対象としたレジリエンスプログラム（UKRP）が導入されました。これまでの継続した取り組みにより、2018年までに数千人の教員がレジリエンス教育のトレーニングを受け、さらにそれぞれの生徒たちにプログラムが実践されています。第一世代コホートを対象とした調査から、生徒のメンタルヘルス・学校出席・学業成績の向上が示されたということです。特に、プログラム開始時点でメンタルヘルス問題を呈したり、成績が到達目標に達していなかった生徒たちへの効果が大きかったと報告されています。

国民の幸福度Gross National Happiness（GNH）が国の繁栄の指標であるという政策の下、教育省がポジティブ心理学を応用したGNHカリキュラムを策定し、国内の学校に導入しました。
子どもたちのウェルビーイングの向上を目指したプログラムでは、精神的健康と共に、子どもたちの学びに向かう姿勢・学業成績も向上したと報告されています。

貧困のため学校教育にアクセスできない最貧層の女子を対象に、NPOや教育支援団体が行政の協力を得て、ポジティブ心理学に基づくレジリエンスや強みの教育を実践しています。
これらの教育を通して、少女たちは自らの権利や価値に気づき、過酷な状況の中でも自分の意見を持ち、力を発揮する術を学んでいます。また、参加者たちの健康、ウェルビーイングやレジリエンスなどを指標として、長期縦断研究による効果検証が行われています。

日本でも様々な発達段階の子どもたちに対するポジティブ教育の実践が報告されています（https://j-pea.org/）。中でも、レジリエンス教育の導入事例が多く、例えば、東京都の私立中高一貫校ではスクールカウンセラーによるレジリエンス教育が年間計画の中に盛り込まれ、生徒の学年に応じた実践がなされています。また、広島県教育委員会では「児童生徒の心の回復力を育成する指導の在り方」（2014年）がまとめられ、県内の小学校でレジリエンス教育を実施し、生徒の実情に合わせた支援を行っています。その他、不登校や発達障がいをもつ児童生徒を対象とした支援にもレジリエンス教育が応用されています。